糖尿病の食事におけるポイントや避けるべき食事を徹底解説

糖尿病の食事。ポイントや避けるべき食事

糖尿病とは、血液中の糖分が過剰な状態である病気のことです。

そのため糖尿病と診断されると、まずは食生活の改善による食事療法が行われます。

一方で食事療法は食べられるものや量の制限があるため、つらいと感じてしまい、先延ばしにしてしまう人もいます。

しかし糖尿病の悪化を招き、命にかかわる合併症を引き起こす可能性もあるため、食事療法の先延ばしは厳禁です。

この記事では、糖尿病における食事療法の概要や避けるべき食事について詳しく解説しています。

血糖値が高くなっている人や食生活の改善を検討している人は、是非参考にしてください。

この記事でわかること
  • 糖尿病の食事療法は合併症の予防が目的
  • 糖尿病の食事療法では献立と食事のとり方が重要
  • 献立の考案には食品交換表を活用
  • 食事のとり方はちょっとした意識で実践可能
目次

食事療法は糖尿病の基本的な治療法であり、治療する意識が重要です

食事療法は基本的な治療法。治療する意識が重要

現在糖尿病を根治する治療方法がないため、以下の療法が行われます。

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法

食事療法は、不十分な状態では運動療法や薬物療法による効果も上がらないため、糖尿病の基本的で重要な治療法と位置づけられています。

一方で糖尿病の食事療法は、費用も不要で手軽に始められる治療法ですが、それゆえに先延ばしにする人や続かない人も少なくありません。

つまり、食事療法の効果は本人次第で、糖尿病と向き合って治療する意識が何よりも重要です。

食事療法の目的は合併症の予防

糖尿病では、血糖値が高い状態の継続により血管が傷んでしまい、以下の合併症などが起きる可能性が高くなります。

  • 糖尿病神経障害
  • 糖尿病網膜症
  • 糖尿病腎症
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 脳梗塞や脳卒中
  • 心筋梗塞や狭心症

上記の合併症の中には、日常生活に支障をきたすものもあるため、糖尿病では合併症の予防が最重要とされています。

したがって食事療法は合併症の予防が目的となり、以下の状態を目指します。

  • 糖分の抑制
  • インスリンの分泌量増加、機能向上

糖尿病はすい臓から分泌されるインスリンの減少や機能低下により血液中の糖分が過剰になるため、食事療法の実施により上記の状態に改善され、合併症の可能性も下がります。

食事療法のポイントは献立と食事のとり方

糖尿病における食事療法では、献立と食事のとり方が重要です。

献立により、1日の適正な糖分や必要な栄養素を確保し、食事のとり方で血糖値の上昇を緩やかにします。

食事療法には食べられるものや量が制限される厳しいイメージがありますが、糖尿病の食事療法では禁止されている食べ物はありません。

しかし食品ごとに糖分や栄養素が異なるため、これらを踏まえた糖尿病に良い献立の考案が必要です。

一方で食事のとり方は、ちょっとした意識で実践できますが効果が出るには相当な時間を必要とします。

糖尿病は毎食の積み重ねにより少しずつ症状が改善するため、食事療法を根気よく続けていきましょう。

献立は1日の適正な糖分と必要な栄養素の確保が重要

糖尿病の食事療法の献立。適正な糖分と必要な栄養素の確保

献立は、糖尿病の食事療法の効果に影響するため重要であり、そのポイントは以下の2点です。

  • 1日の適正な糖分の範囲内に抑える
  • 必要な栄養素をバランスよく食べる

糖尿病は血液中の糖分が過剰な状態の病気であるため、1日に消費される糖分以上の摂取は糖尿病を悪化させます。

またインスリンの分泌量増加や機能改善、血糖値の上昇抑制のために、必要な栄養素をバランスよく食べる必要があります。

つまり糖尿病の食事療法では、食事ごとに適正な糖分の範囲内に抑えつつ、必要な栄養素を確保する献立の考案が必要です。

しかし食品によって糖分や栄養素は異なるため、献立の考案を難しいと感じる人もいます。

そこで日本糖尿病学会では、糖尿病食事療法のために、栄養成分が似た食品を6つのグループと調味料の7つに分類している食品交換表を作成しています。

食品交換表を活用すると、栄養学などの専門的な知識がなくとも、1日の適正な糖分や必要な栄養素を満たした献立の考案が可能です。

1日に必要なエネルギー量は体格や活動量で決まる

糖分は体内で活動に必要不可欠なエネルギーとなるため、糖尿病の献立は1日に必要なエネルギー量に抑えられなければなりません。

そのため糖尿病の食事療法では、まず1日に必要なエネルギー量の把握をします。

エネルギー量はkcalで表され、キロカロリーと読みます。

1日に必要なエネルギー量はさまざまな方法により算出できますが、代表的な計算方法は身長や体重などから割り出す標準体重と活動量を示すエネルギー係数を使った、以下の計算式です。

1日の必要なエネルギー量=標準体重×エネルギー係数

標準体重とは、肥満度を示すBMIが22となる体重のことで、以下のBMI算出の計算式を使います。

BMI=体重(kg)÷身長(m)×身長(m)=22

体重= 22×身長(m)×身長(m)=標準体重

65歳以上の人は、筋力や日常的な動作状況、食事の摂取状況に応じてBMIが22~25で決定します。

標準体重=22~25×身長(m)×身長(m)

一方でエネルギー係数は、活動量に応じた以下の係数を使います。

活動量活動例エネルギー係数
軽度デスクワーク25~30kcal/kg
中度家事、軽い運動30~35kcal/kg
重度力仕事、活発な運動35kcal/kg~

例えば、身長160cmの専業主婦が1日に必要なエネルギー量は、以下のとおりです。

1日に必要なエネルギー量=標準体重×エネルギー係数=22×1.60×1.60×30~35=1,689.6~1,971,2kcal

上記の計算により、1日に必要なエネルギー量は1,700~2,000kcalとなりますが、年齢や性別でも違いがあります。

食事療法を始めるにあたっては、算出した数値を踏まえてかかりつけの医師と相談のうえ、1日に必要なエネルギー量を決定しましょう。

5つの栄養素のバランスの良い摂取が必要

5つの栄養素。バランスのいい摂取が必要

糖尿病の食事療法では、バランスのよい摂取が必要とされている栄養素と役割、代表的な食品は以下のとおりです。

栄養素役割代表的な食品
炭水化物・活動のエネルギー源となる栄養素
・小腸で消化吸収されてブドウ糖となり、血液に運ばれる
・1g=約4kcal
・穀類
・芋類
・豆
・果物
たんぱく質・筋肉や血液になる
・炭水化物や脂質の摂取が少ないときはエネルギーにもなる
・1g=約4kcal
・魚介、肉
・チーズなど乳製品
・大豆
・牛乳
脂質・ホルモンや細胞膜となる
・エネルギーにもなる
・1g=約9kcal
・バター
・マヨネーズ
ビタミン、ミネラル・身体の機能を整える
・ミネラルのうちカルシウムは歯や骨になる
・きのこ
・海藻
食物繊維・炭水化物のうちエネルギーにならない栄養素
・食べても血糖値は上がらない
・血糖値の上昇を抑えたり、身体の調子を整えたりする
・野菜
・こんにゃく

上記のうち炭水化物やたんぱく質、脂質は三大栄養素といわれており、エネルギーになります。

一般的には、1日に必要なエネルギー量の50~60%を炭水化物、体重1kgあたり1.0~1.2gをたんぱく質、残りを脂質での摂取が三大栄養素の理想的なバランスとされています。

例えば、体重56kgで1日の必要なエネルギー量が1,800kcalの場合、三大栄養素の理想的な摂取量は、以下のとおりです。

栄養素理想的なバランスとされる摂取量
炭水化物900~1,080kcal(225~270g)

1,800×50~60%=900~1,080
900~1,080÷4=225~270
たんぱく質224~268.8kcal(56~67.2g)

56×1.0~1.2=56~67.2
56~67.2×4=224~268.8
脂質451.2~676kcal(50.1~75g)

1,800-900-224=676
1,800-1,080-268.8=451.2
(451.2~676)÷9≒50.1~75

上記のとおり、体重や1日の必要なエネルギー量により三大栄養素の理想的な摂取量を算出できます。

しかし、エネルギーや栄養素の含有量が異なる食品を組み合わせ、理想的な摂取量を満たす献立の考案は非常に面倒です。

そのため糖尿病の食事療法では、栄養素の配分表及び日本糖尿病学会の糖尿病食事療法のための食品交換表を使用します。

配分表と食品交換表により、1日に必要な栄養素を満たす食材が明確になるため、献立の考案がスムーズになります。

献立の考案は食品交換表を活用

食品交換表では、栄養素が似た食品ごとに6つの表と調味料に分類しています。

さらに6つの表に分けられた食品は80kcalを1単位とし、以下のように1単位となる重量が表示されています。

炭水化物を含む食品炭水化物を含む食品たんぱく質を含む食品たんぱく質を含む食品脂質を含む食品ビタミン、ミネラルを含む食品調味料
表1表2表3表4表5表6表7
該当する食品と1単位となる重量・ごはん軽く半杯50g
・食パン6枚切り約半分30g
・ゆでうどん3分の1玉80g
・さつまいも60g
・いちご250g
・梨200g
・りんご150g
・ばなな100g
・鮭切り身60g
・牛もも薄切り40g
・もめん豆腐100g
・卵50g
・牛乳120ml
・低脂肪加工乳160ml
・全脂無糖ヨーグルト120g
・植物油10g
・バター10g
・マヨネーズ10g
・ピーナッツ15g
・キャベツ、キュウリ、白菜、トマト、ピーマン、きのこなど取り合わせて300g・みそ小さじ1杯0.15単位
・みりん小さじ1杯0.15単位
・トマトケチャップ大さじ1杯0.3単位

例えば、1日に必要なエネルギー量が1,600kcalである場合は、上記の表から20単位分の食品を摂取します。

糖尿病の食事療法では、摂取する単位が偏らないように、医師や栄養士がその人に合った栄養素の配分表を作成します。

例えば、1日に必要なエネルギー量が1,600kcalである人の食事ごとの配分表は、以下のとおりです。

表1表2表3表4表5表6調味料
1日の単位11141.4110.6
朝食310.3
昼食410.3
夕食520.4
間食11.4

上記の表5と調味料は食事ごとの配分がなく、3食の合計が1日に摂取が必要な単位となるように摂取します。

ごはん1単位をゆでうどん1単位で摂取するなど、食品交換表の同じ表に属する食品同士は交換できますが、所属する表が異なる食品同士の交換はできません。

このように、食品交換表では1日に必要なエネルギー量や栄養素が食品ごとの重量で表示されているため、献立考案の手間がかなり短縮できます。

なお、食品交換表では塩分の表示はされていないため、高血圧症などで塩分コントロールが必要な人は、別途塩分量の把握が必要です。

血糖値の上昇を緩やかにするため規則正しい食生活への改善が重要です

血糖値の上昇を緩やかに。規則正しい食生活への改善が重要

糖尿病の食事療法では、血糖値の上昇を緩やかにするため、以下の規則正しい食事を指導しています。

  • 食事は腹八分目までにする
  • ゆっくりよく噛んで食べる
  • 朝食、昼食、夕食を決まった時間に食べ、深夜や寝る前に食べない

満腹になるまで食べると糖分の過剰摂取となる可能性が高いため、食事は腹八分目までが最適です。

食事から約15分後に満腹中枢といわれる脳の器官が血糖値の上昇を感知し、満腹感を得ます。

従ってゆっくりよく噛んで15分以上の時間をかけて食べると、血糖値の上昇によって満腹感を得るまでの食事の量を減らせるため、食べすぎの予防になります。

決まった時間の食事は、身体に負担が少ないうえ、身体のリズムが整う食べ方です。

一方で深夜や寝る前の食事は、昼食から相当時間が経過しているため糖分が多いメニューを食べ過ぎる傾向にあります。

食生活の改善は、献立のような面倒な計算などは必要なくすぐに始められる内容ですが、その分軽視しがちです。

さらに食生活の改善は短期間ではほとんど効果が見られないため、根気強く続けましょう。

間食や嗜好品、アルコールなどはエネルギー量の過剰摂取になりがち

間食や嗜好品、アルコールなどは以下のとおり糖分の過剰摂取になりがちであるため、控えるようにしましょう。

嗜好品やアルコールのおおよその単位は、以下のとおりです。

食品おおよその単位
ショートケーキ1個4~5
大福1個2~3
ポテトチップス一袋5
瓶ビール500ml2.5
日本酒1合2.5

糖分を過剰摂取した場合に消費するために運動をする人がいますが、1単位を消費する運動量の目安は、ランニングで10~15分程度、ウォーキングで20~30分程度です。

つまりショートケーキ1個分の糖分を消費するには、ランニングで40~75分程度、ウォーキングで80~150分程度必要となります。

間食や嗜好品は、食物繊維やビタミンが含まれている果物などを昼食後に1単位程度が適当です。

一方でアルコールは糖分は高いものの、栄養素はほとんど含まれないため、糖尿病の食事療法では禁酒を勧められる場合があります。

アルコールが好きな人や仕事などで飲み会が避けられない人は、担当の医師や栄養士に飲んでも良い量を相談しましょう。

外食やコンビニの食事は栄養素のバランスが取れたメニューにしましょう

外食やコンビニの食事。バランスが取れたメニューへ

外食では揚げ物や丼もの、麺類など、糖分が多く味付けも濃いメニューに偏る傾向にあるため以下の点を心がけましょう。

  • 食べ放題、バイキングはできるだけ避ける
  • 洋食や中華よりも和食を選ぶ
  • 一品料理ではなく、副菜などがセットされている定食を選ぶ
  • 量が多い場合は残す

最近は、メニュー表などにも成分表示が記載されている飲食店も増えてきています。

注文する際は事前に成分表示を確認し、糖分の過剰摂取や栄養素の偏りがないメニューを選びましょう。

一方でコンビニの弁当や惣菜も糖分が多く、栄養素のバランスが偏りがちです。

例えば、うどんとおにぎりのセットなど炭水化物のみの食事では、糖分の過剰摂取となる場合があります。

うどんと海藻のサラダのセットにするなど、栄養素のバランスを考慮した組み合わせにしなければなりません。

外食のメニュー表と同じく、コンビニの弁当などにも成分表示がされています。

糖分の過剰摂取を避け、栄養素のバランスを取るためにも購入前に必ず成分表示を確認してください。

食事療法は糖尿病の基本となる重要な治療方法であり、継続が重要

糖尿病の食事療法は合併症の予防を目的としており、血糖値の抑制とインスリンの分泌量増加や機能向上が見込めます。

さらに食事療法は、運動療法や薬物療法の効果にも影響があるため、糖尿病の基本となる重要な治療方法とされています。

食事療法では、食品交換表により専門的な栄養学の知識がなくとも1日の適正な糖分と必要な栄養素を確保する献立の考案が可能です。

一方で食事のとり方や嗜好品などの摂取、外食などは、ちょっとした意識で改善できます。

ただし食事療法は短期間で効果が得られるものではなく、現代医学では糖尿病を根治する治療法もありません。

糖尿病の食事療法を行う場合は、根気強く継続し、合併症とは無縁の生活を送るようにしましょう。

この記事の監修者

大学病院で糖尿病・内分泌内科の臨床医として経験を積み「リサーチマインドを持った診療」をモットーに日々研鑽を積んでまいりました。当院が少しでもあなた様のお役に立つことが出来れば幸いです。

■経歴
平成21年3月 金沢医科大学医学部医学科卒業
平成21年4月 杏林大学病院 初期臨床研修医
平成26年1月 金沢医科大学病院 糖尿病・内分泌内科学教室
平成30年4月 金沢医科大学病院 助教
平成30年9月 金沢医科大学大学院医学研究科 博士課程修了
令和3年1月 金沢医科大学病院学内講師
令和5年6月 Gran Clinic(石川県金沢市)院長

■所属学会
日本内科学会 認定医
日本糖尿病学会 専門医
日本抗加齢医学会 専門医
日本腎臓学会
日本内分泌学会

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